百人一首ちょっと講座
その4
3 柿本人麿
かきのもとのひとまろ
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の
ながながし夜をひとりかも寝む
山鳥のしっぽはとっても長いんだよ。そのしっぽみたいに長い長〜い夜を一人寂しく寝るのかなあ。(恋人にどうも待ちぼうけくらわされたらしいんだ。山鳥っていうのはね、雌雄が谷を隔てて寝る習性があると言われてるんだ。僕も山鳥?)
7 安倍仲麿 あべのなかまろ
天の原ふりさけ見れば春日なる
三笠に山に出でし月かも
空を遥かに見渡すと美しい月が昇っているのが見えたよ。あれは、ふるさとの奈良の春日にある三笠山に出ていたあのなつかしい月なんだよ。(唐の地に留学していたんだ。もうじき帰れるんだよ。と、このときは思ってたんだけどねえ。帰るとき船が難破しちゃって、唐に戻る羽目に。トホホ)
8 喜撰法師 きせんほうし
わが庵は都のたつみしかぞすむ
世をうぢ山と人はいふなり
私のこの庵は都の東南方向にある宇治山でね、とっても満足して住んでるっていうのに、人はね、世の中の事を憂く思って山にこもってるって言うんだよ。(自然な中で暮らすっていいと思わない?「しかぞすむ」は鹿が住んでるよって意味じゃなく、しかと心得たって言う時みたいな、はっきりきっぱりってことだよ。)
12 僧正遍昭 そうじょうへんじょう
あまつ風雲の通ひぢ吹きとぢよ
をとめの姿しばしとどめむ
ねえ、空を吹く風〜、雲の中の通路を吹いて閉じてよ〜。きれいな天女が踊ってる姿をもうちょっととどまってもらって見ていたいからさ〜。(エロ坊主と言わんといて。これ詠んだのは、まだ、出家前なんでね。新嘗祭のイベントで、公卿の家の娘が天女になって舞うんですよ。ほら、君も見たいと思うでしょ?)
16 中納言行平 ちゅうなごんゆきひら
立ち別れいなばの山の峰の生ふる
まつとし聞かば今帰り来む
今、こうやって貴女と別れて遠い因幡の国に行くんだけどさぁ、そこにある稲羽山のてっぺんに生えてる松、じゃなくってぇ「待つ」っていうあなたの言葉が聞けるならぁ、すぐにでも戻って来るよ。ネッ。(国司として任ぜられたのだから、そう簡単には帰れないはずなのですが、この人何考えてるんでしょうね。)
23 大江千里 おおえのちさと
月見れば千々に物こそ悲しけれ
わが身ひとつの秋にはあらねど
秋の月をみてるとさ、こう、なんていうのかなあ、あれこれあれこれ考えちゃってさ、もの悲しいんだ。ボク一人の秋ってわけじゃなく、みんなにも同じ秋なのに、どうしてあの月は他の人にはなんともなくて、僕だけが心乱れるんだろう?(名前見て姫と間違わないでね。)
24 菅家
かんけ
このたびはぬさもとりあへず手向山
もみぢの錦神のまにまに
このたびの旅は、あわただしく、もう、とりあえずって感じで出かけてきちゃったんで、手向山の神様に手向けるぬさ(幣)ももって来ませんでした。この手向山の紅葉が錦の布みたいにとってもきれいなので、これをぬさの代りに捧げます。神様の御心にかなうと良いんですが・・・(ごめん、自分のものでもないのに)
26 貞信公 ていしんこう
小倉山峰のもみぢ葉心あらば
今ひとたびのみゆきまたなむ
小倉山の峰にあるきれいな紅葉さん、もしあなたに心があるのなら、天皇の行幸があるまでこのままで待ってて欲しいな。(宇多法皇がごらんになって、あまり綺麗で醍醐天皇(法皇の子)がご覧になるのにふさわしいから見に来ていただこうとおっしゃったので、お返事として読んだ歌。)
30 壬生忠岑 みぶのただみね
有明のつれなく見えし別れより
暁ばかりうきものはなし
貴女を訪ねてきたのに、どうしてか逢う事ができなかった。夜があけて、有明の月が残っているのが無情に見える。あの時以来、暁ほどつらいものはないと思う。(古今集の「題しらず」として載っているが、古今和歌六帖には「来れど逢はず」の部に載っている。訳の最初の部分はそこから。)
32 春道列樹 はるみちのつらき
山がはに風のかけたるしがらみは
流れもあへぬ紅葉なりけり
山の中の川に、柵(しがらみ)を誰かが作ってかけておいたのかなあと思ったんだけど、よく見たら、流れる事ができないで川の狭いところに引っかかっていた紅葉だったんだ。
37 文屋朝康 ふんやのあさやす
白露に風の吹きしく秋の野は
つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
秋の野原の、草の葉っぱの上におりたきれいな白露。風が絶え間なく吹いてるから、まるで、紐の切れたネックレスみたいに散らばっているよ。(正しくは紐を通してない玉、ですが、紐の切れたネックレスのほうがイメージが伝わるかなと思って。)
47 恵慶法師 えぎょうほうし
八重むぐらしげれる宿の淋しきに
人こそ見えね秋は来にけり
すごくたくさんの葎(むぐら)が生い茂ったこの家、あんまり淋しくてだ〜れも遊びに来てくれない。人は一人も来ないけど、秋だけはちゃんと来てくれる。これからもっと淋しくなるよ。(実はこの家、昔は豪邸だったんですけどね・・・)
59 赤染衛門 あかぞめえもん
やすらはで寝なましものを小夜ふけて
かたぶくまでの月を見しかな
あんたの約束がウソだってわかってたら、さっさと寝ちゃってたのにサ、来るって信じて待ってたのヨ。でさ、夜がふけてって西の山に傾いてく月をず〜っと見ちゃったじゃないのさ〜。
68 三条院 さんじょういん
心にもあらで憂き世にながらへば
恋しかるべき夜半の月かな
長く生きていたいって思ってるわけでもないけど、ただただこのつまらん世の中を生きながらえていたなら、今夜の夜半の月はさぞかし恋しく思うだろうね。(つまらないって言いながら恋しく思うなんて変?だって、在位中には嫌な事件はいっぱいあるし、ボク、失明するかもしれないんだ。わかってくれる?)
69 能因法師 のういんほうし
嵐ふく三室の山のもみぢばは
竜田の川の錦なりけり
嵐が吹いて三室山のもみじがいっぱい散っちゃって竜田川に落ちたから、まるで、川は錦を織ったみたいなのさ。
71 大納言経信 だいなごんつねのぶ
夕さればかど田の稲葉おとづれて
芦のまろやに秋風ぞふく
夕方になると門前の田んぼの美しい稲葉をそよそよと訪問して、芦ぶきの小屋に秋風が吹いてくるよ。
75 藤原基俊 ふじわらのもととし
契りおきしさせもが露を命にて
あはれ今年の秋も去ぬめり
貴方がお約束してくれた「させも草」という言葉を命のように大切にしてきたのに、望みも虚しく、あ〜あ、今年の秋も行ってしまうよ。(息子がなかなか出世しないので忠通様(76番)に恨み言を言ったら「しめぢが原」とお返事くださった。「なほ頼めしめぢが原のさせも草われ世の中にあらむかぎりは」)
86 西行法師 さいぎょうほうし
嘆けとてつきやは物を思はする
かこち顔なるわが涙かな
「嘆け!」とでも言いたくて月は私を物思いにふけさせるのだろうか?いや、そうじゃない。月はただ、空にあるだけなのにボクが月にかこつけて恋人のために涙を流しているだけなんだよ。
91 後京極摂政前太政大臣 ごきょうごくせっしょう
さきのだじょうだいじん
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに
衣かたしきひとりかもねむ
こおろぎが鳴いている寒い霜の降りる夜に、名前まで寒そうな「さむしろ」なんていう敷物に、着物の片袖を敷いて、淋しく一人寝するのかなあ。(いかにも淋しいって感じでしょ?実は伊勢物語や古今集に「さむしろに衣かたしき」なんていう恋の歌があるんだよね。それを元に季節の歌にしてみたんだけど・・・)
94 参議雅経 さんぎまさつね
み吉野の山の秋風さよふけて
ふるさと寒く衣うつなり
吉野の山から吹いてくる秋風に夜がふけて、この寒〜い旧都吉野で、人々が衣を打つ砧の音が寒々と聞こえて来るんだよ。(これも本歌取り。坂上是則「み吉野の山の白雪つもるらし故郷寒くなりまさるなり」一句と四句が全く同じ言葉であるというのは易しそうで実はかなり難しい手法だそうです。)